Jacob Nielsen氏の「別モバイル・サイトか、フル・サイトか」の問題点を紐解いてみる

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先日、ユーザビリティ・エキスパートのJacob Nielsen氏が彼のウェブサイト「Alertbox」に掲載した「Mobile Site vs. Full Site (別モバイル・サイトか、フル・サイトか)」(4月10日付け)という記事を発端に、「モバイル・サイト」のユーザビリティや実装手法について、ウェブ制作者やデザイナーの間で議論が繰り広げられているようです。大変興味深い内容だったので、自分なりの考察をまとめてみました。

元記事の内容

まずは「モバイル・サイト」と「フル・サイト」の定義の確認から。

  • ここで彼が使う「モバイル・サイト」とは、デスクトップ向けとは別のモバイルに最適化された別モバイル・サイトのこと。
  • 「フル・サイト」とはデスクトップ向けのフル機能、フル・コンテンツを備えたサイトのことを指します。

また、Nielsen氏はこの記事のまとめ部分で、以下のように言っています。以下、英文の意訳です:

良いモバイル・ユーザ体験には、デスクトップ・ユーザを満足させるものとは異なるデザインが要求される。2つのデザイン、2つのサイト、それらを相互にリンクして機能させるのがよい。

数百のサイトでユーザビリティテストを行った結果、モバイルに最適化されたサイトのガイドラインは明瞭です:

  • 余裕がある場合、モバイルに最適化されたサイト(またはモバイル・サイト)を構築するべき。モバイル端末を使ってサイトにアクセスする際、モバイル・サイトのほうがフル・サイトより断然ユーザビリティが良いことが分かっている
  • モバイル端末でフル・サイトにアクセスがあった場合、モバイル・サイトに自動でリダイレクトするべき。現状、検索エンジンはモバイル・サイトを高いランクに位置づけることが少なく、モバイル・ユーザは頻繁にフル・サイトに誘導されてしまう
  • フル・サイトからモバイル・サイトへ分かりやすいリンクを設置するべき
  • モバイル・サイトからフル・サイトへ分かりやすいリンクを設置すべき

Mobile Site vs. Full Site – Jakob Nielsen’s Alertbox, April 10, 2012

さらに以下のようなことも言っています:

  • 様々なプラットフォーム(iPhone、Android、Windows Phome、BlackBerry)でテストしたが、端末間の差はなかった
  • 10インチ以上のタブレットではフル・サイトがそこそこ使えるので、違うガイドラインが適用されるべき
  • Kindle Fireなど、7インチ程度のミッドサイズの端末向けには、第3のサイトを作るのが望ましいが、たいていの場合、モバイル・サイトを提供することで問題ないだろう

このガイドラインにある2つの問題点

Nielsen氏がこの記事で紹介しているガイドラインには、大きく2つの問題点があると思います。

別モバイル・サイトとフル・サイトの2つの選択肢しか考慮されていない

このガイドラインで一番違和感が大きいのは、前提として「モバイルに最適化されたサイト」と「デスクトップに最適化されたサイト」の2つの選択肢しか考慮されていないところです。第3の選択肢として、レスポンシブWebデザインのような1つのサイトで複数でバイスに最適化するといった選択肢はまったく考慮されていません。

また、タブレット端末についてNielsen氏は「第3のサイトを作るのが望ましい」と言っています。モバイル端末やタブレット端末だけでなく、デスクトップ、テレビ、ゲーム機など、ウェブサイトの閲覧に利用される異なるスペックの端末が増えていくのは必至です。シェアの多い端末が新たに現れるごとにサイトを構築するのは、実装面でも運用面でも非現実的です。そんな中、一つの手法として頭角を表している「レスポンシブWebデザイン」が選択肢として考慮されていないのには違和感があります。

Nielsen氏は「Nielsen responds to mobile criticism (Nielsen氏、モバイルの批判に応える)」というインタビュー記事で「ユーザビリティの判断と実装の判断は別の話」と言っていますが、実装方法や運用・運営について考慮しないガイドラインは机上の空論でしかないと思います。

故に、このガイドラインは「別モバイル・サイト vs フル・サイト」という、2つの実装方法しか選択肢がなかった場合にのみ当てはまるユーザビリティ・ガイドラインとして見るしかない。制作者やデザイナーがこのガイドラインを批判した背景には、ユーザビリティに関して大きな影響力を持つNielsen氏に、彼らがそれ以上のことを期待していたからではないでしょうか?

モバイル・サイトとフル・サイトの相互リンクがユーザビリティ?

Nielsen氏は、モバイル・サイトで削った足りない機能やコンテンツは、フル・サイトにリンクすれば良いと言っています。もちろん、モバイル・サイトでは可能な限り必要な機能・コンテンツを揃えておくことを条件としています。しかし、フル・サイトでのユーザ体験は圧倒的に劣ると言っておきながら、足りない機能やコンテンツはフル・サイトにリンクすれば良いというのは短絡的だし、一種の諦めのようにも感じます。

たとえば、モバイル端末でサイトを閲覧したことがある方なら、以下のようなことを一度は体験したことがあると思います。

  1. 検索結果に表示されたデスクトップ・サイトのリンクをクリックしたら、探していた機能のないモバイル版に自動でリダイレクトされてしまった。
  2. フル・サイトなら情報があるかと思い、フル・サイトへのリンクをクリックしたが、フル・サイトのトップページへのリンクだったので、コンテンツをいちから探し直さなくてはならなかった。

自分も幾度となくこのような体験をして、モバイル・サイトへの信頼がかなり低くなりました。これをガイドラインにすることには、かなり違和感があります。

まとめ

さて、問題点のある内容ながらもモバイル・ユーザビリティについて考える機会を与えてくれたNielsen氏に感謝しつつ、この記事をまとめてみます。

モバイル・ユーザビリティに特化したガイドライン

このガイドラインは手法とユーザビリティを切り離し「大義としてのモバイル・サイト = モバイル端末からアクセスした際のサイト」のユーザビリティに特化するべきだったのだと思います。そもそも「別モバイル・サイト vs フル・サイト」とすることで、実装の手法が入ってしまっています。たとえば、今回のガイドラインにある「モバイル向けに要素を大きく表示する」といった内容は、実装や運営に関係なくどの条件にも当てはまります。どの実装方法を選んでも、このガイドラインを守れば最低限のユーザ体験を補填できるといった内容にするべきだったのではないでしょうか?

最後にひとこと

すこし話はそれますが、やはり「2つのデザイン、2つのサイト、それらを相互にリンクして機能させるのがよい」とは思えません。「1つのサイトを、1つのコンテンツで、複数デバイスに最適化する」方法のほうが、今現在、個人的にはかなりしっくり来ます。たとえば、「1つのサイトを、1つのコンテンツで、複数デバイスに最適化する」方法の1つである「レスポンシブWebデザイン」は課題は多いながらも、多くは解決できるものだと信じています。

また、以下の2つを理由に、そう感じています:

  1. デバイスごとに複数サイトを運営するのは非現実的(これは実際に問題になっています)
  2. ユーザに必要とされるコンテンツ・機能は、デバイスによって大きく変わるものではない(自分の実感以外、データなどの根拠はないですが)

2つ目に関しては、まだまだ検証が必要ですが、とても重要なことなので情報を集めていきたいと思っています。良い情報をご存知の方がいたら、ぜひコメント欄やTwitter (@rriver)メールで共有お願いします!

参考リンク

元記事

批判・反対意見記事

批判・反対意見に対するNielsen氏のインタビュー記事

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