「アート・オブ・デザイン 」というNetflixのシリーズで「お、これは!」というエピソードに出会ったのでご紹介します。グラフィック・デザイナーのポーラ・シェアさんの回なんですけど、彼女がデザインのプレゼンをする際のクライアントの心理(期待値)の変移について語っているところに特に共感しました。
「クライアントにデザイン案を見せる時って、だいたいこうだよなぁ」というのが、すごく上手に説明されていて、きっとデザイナーの方なら「ほんこれ」ってなるはずですw
まず、下の図の黒い点線がミーティングが始まる前の参加者のデザイン成果物に対する妥当な期待値のラインです。
プレゼンが始まってデザインの説明をすると期待値が上がってマックスまで上昇します。ここが好意的な評価のピーク。
その後に、誰かが「でも、これってどうなの?」とか「これはこうなんじゃないの?」という懐疑的な発言をして期待値がぐーんと急降下して「妥当な期待値」を下回ってしまいます。
そこをデザイナーが妥協したり説明で乗り切って「なるほど、そうだよね」とクライアントに思い直してもらって、再度、期待値が上昇します。でも、さっきのマックスほどは上がらない。
でも、「これでいい」とポーラは言っています。
で、できればここで納得してもらってプレゼンを終了させなければならない、と。
というのも、さっき取り返した期待値に対してもう一度懐疑的な意見が出てくると、また「妥当な期待値」を下回って、今度はそれほど回復させることができず、また「妥当な期待値」を下回ってということを繰り返してしまうからです。
で、最終的にはボツになる…という。ポーラは「Sudden Death」という表現を使っていました。
僕がデザインに関わる仕事をするときも最初のピークの時に最終案として終わらせられればと思って挑むんですが、なかなかそうは問屋が卸さないもんなんですよね。たいていの場合、2番目か3番目のピークあたりで妥協案とか譲歩案を示してOKを取り付けるのがパターンになる。
世界のトップデザイナーがそうなんだから、もう仕方ないと思うしかないですね。汗
「クライアントはこのデザインが本当にうまくいくという証拠が欲しいんです。でも、問題はそこに証拠なんてないことなんです。それが人がものを見て、理解して、受け入れる方法なんです」と、ポーラは言っています。
ピークで終わらせられたらいいのに
う〜ん。深い。
でも、組織内のデザインの意思決定の場では、1番目のピークのところで最終案としてデザインを受け入れられるように工夫ができないもんですかね?組織内の意思決定の場では受発注の関係ではないので、同僚同士とか上司と部下の関係だったりするわけだからお互いをもっと知っていてもいいはずだし。組織やチームでポーラが言っているような人の特性を理解していれば、より良いデザインの選択肢を選べるように持っていくこともできると思うんですよね。それが組織力とかチーム力だし、それで、成果が飛躍的に上がる可能性が高そうです。
それと、僕がクライアントの立場のときは、はじめのピーク時のデザインを崩さないように最大限の注意を払います。この期待値がピークの時のデザインって勢いを持っているんですよね。そして、そこに修正が加えられていくことで、どんどんどんどん勢いが失われていく。だから、いかに勢いを殺さずにディレクションして最終版にまで持っていけるか。それが、良い仕事をするためのクライアントの役割だと思うんですよね。
もちろん、「勢い」と「洗練」のバランスの判断は難しいので、経験と度胸を必要としますけど。他にもデザイナーの力量だとか目的の共有がうまくいっているかとか、そういう要因も関係してくるから簡単じゃないですけどね。でも、クライアントだったらデザイナーの能力をいかに引き出すかに集中すべきです。
さいごにひとこと
このシリーズは著名なデザイナーや建築家、イラストレーターの仕事や考えを見て「デザインの力」を読み取ろうというドキュメンタリーで、デザイナー自身が彼らの作品や考えについて語るのがメインの内容です。すごく勉強になる内容なので、特にデザイナーの方々にオススメです。まだ、4エピソードしか見てませんが、僕にとっては今のところポーラ・シェアの回がベストです。
ちなみにこの方、米テンプル大学タイラー・スクール・オブ・アーツを卒業されてるんですね。親近感を感じますw
2018年8月5日に公開され、2020年2月17日に更新された記事です。
About the author
「明日のウェブ制作に役立つアイディア」をテーマにこのブログを書いています。アメリカの大学を卒業後、ボストン近郊のウェブ制作会社に勤務。帰国後、東京のウェブ制作会社に勤務した後、ウェブ担当者として日英バイリンガルのサイト運営に携わる。詳しくはこちら。
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