先週の金曜日の晩、ワタリウム美術館に中村勇吾さんと藤本壮介さんのトークショーを聞きに行った。2時間のイベントで前半約1時間が中村さんの作品紹介だったんですが、それがすごく面白かった。最終的なアウトプットだけでなく作品のコンセプトや制作の過程まで、惜しみなくたくさん見せてくれて説明をしてくれた。中村さんのことはまだ自分が学生だったころから知っていたんだけど、作品を見て「おぉ〜、すごい」というのはあったけど、それだけと言ってしまえばそれだけのものが多い印象でした。「すげぇ〜」と思って、彼の名前は覚えていたけど、作品はただなんとなく通りすぎて行く面白いもの。特に強い衝撃を受けた記憶はありませんでした。けれど今回の話を聞いて彼の作品の見方が180度変わりました。やっぱり、表面を見ただけじゃ分からないモノゴトって多いですね。
10月中旬に行った瀬戸内国際芸術祭でも今の人々やアートに沢山の刺激を受けてきたが、東京の小さな美術館の小さな地下のスペースで開催された2人のトークショーにも、それと同じくらいかそれ以上の刺激をもらいました。中村さんの作るもののすごさに関心し、羨ましくも、恨めしくも、悔しくも思い。。。まだ頭のなかでどう消化してよいか分からなくて考えがまとまらないんですが、どうにかこの体験をこれからの自分のどこかに結びつけておきたい。どうしても結びつけておく必要がある体験だったように思えてなりません。
ということで、書くことによって考えがまとまることを期待してなんとなく書き始めてみました。。。
最近のこのブログはツールの紹介ばかりで、多少マンネリ化してきたようにも思っていたところでした。たまには、自分の考えなんかもじっくり書いてみないと「ブログ」というメディアを利用している価値が薄れてしまうように思います。せっかく世界に発信できるわけだし。ツール紹介するのも楽しいんですが、そればっかりでもつまらない。
このブログで書いている情報が自分を含む誰かのためになればな〜、なんて思いながらこのブログをやってるわけなんですが、今回の投稿のように思考の垂れ流しも、もしかしたら誰かの役に立つことがあったりする?かも。。。
さて、もとに戻って中村勇吾さんの話。
そもそもこのトークショーを知ったのは、ワタリウム美術館でやっている「山のような建築 雲のような建築 森のような建築 建築と東京の未来を考える2010」(2010年8月14日〜2011年1月16日まで)という建築家の藤本壮介さんの展示を見に行ったのがきっかけでした。もらったパンフレットを読んでいて目に入った中村勇吾さんと藤本壮介さんのトークショー。この2人の話は面白いに違いないと思ってその場でチケットを買いました。
そしてトークショー当日。
中村勇吾さんの作品紹介が始まってすぐに彼の話に引き込まれました。無数に並ぶWindowsのフォルダーの中から面白いものがばんばん出てきて、作品やその作品が生まれたいきさつ、コンセプトや制作の過程の話にどんどん引き込まれていきました。まだまだたくさん見ていないフォルダが残っていたのでもっと見せてほしかった。。。
それはさておき、彼の作品紹介を見て説明を聞いていて思ったのは、彼のやっていることって企業に依頼されてお金をもらってやってるんだけど、どちらかというとアートに近いということ。友人のアーティストのサイトなども作っているようなので、すべてにお金が関わっているわけではないのかもしれませんが、金儲けとは真逆を行っているようで、実はそうでもない中村さんの絶妙なバランスの良さにすごく衝撃を受けたんですね。自分のなかでは最近は「ウェブ = ビジネス」というふうに割り切っているところが強くて、ウェブサイトはビジネスの目的を果たせてなんぼ。。。ROIが証明できてなんぼ、みたいな考えがより強くなっていました。「分かりやすくてなんぼ」とか「売上に貢献できてなんぼ」みたいな、自由な発送を妨げる行き詰まった考えが脳に充満していて、どこか違和感を感じながら「ウェブをやっている」ことが多くなっていたのだと思います。
ところが、中村勇吾さんの話を聞くと、彼は「ビジネス」と「ウェブ」の自分にとっての理想型をいとも簡単そうにやってのけている。今回のトークショーに参加して大きく衝撃を受けた理由の一つはそこだったのかもしれません。頭の中でモヤモヤ発酵しつつある違和感のようなものが、なにかカタチになって見えてきたような、そして、その違和感をどう解決したらいいかが、うっすらだけど見え始めたような。
「ビジネス」だからって楽しいことや面白いことができないわけじゃない。「ビジネス」だからって社会貢献ができないわけじゃない。人に楽しんでもらって、人の何かの役に立たせてもらって、その自然な報酬としてお金をもらう。実は、それがより自然で健全な「ビジネス」のあり方なんだなぁと。
「ROIってなんですか?」というのも、僕は全然ありだと思います。
あと、中村さんは「ほわっとした」という言葉を連呼していて、「なんかいい感じのもの」を表現するのに使っていたんですが、そのスタンスがすごく印象的でした。形容しがたい、されがたい良さ。曖昧だけど、いいもの。言葉にならないけど、いい感じのもの。言葉で説明できないものを言葉で説明してもしょうがない。彼は、それを自分の過去の作品や写真を使ったプレゼンで上手にコミュニケーションしていたように思います。
僕は「言葉にできない良さ」というものを、どうやって伝えたら良いかというのにいつも悩んでいて、解決策を見つけられずにいるんですが、中村さんの話の中に、そのヒントをいただけたように思います。
それにしても、もっともっと勉強しなくちゃ。中村さんが絶賛していた、藤本さんの「建築が生まれるとき」も読みたいな。
2010年11月2日に公開され、2011年7月23日に更新された記事です。
About the author
「明日のウェブ制作に役立つアイディア」をテーマにこのブログを書いています。アメリカの大学を卒業後、ボストン近郊のウェブ制作会社に勤務。帰国後、東京のウェブ制作会社に勤務した後、ウェブ担当者として日英バイリンガルのサイト運営に携わる。詳しくはこちら。
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