スクリーンリーダーのマーケットシェアが気になってデータを探してみたら、2017年10月に行われた利用状況の調査結果が2017年末に公開されてました。WebAIM(Web Accessibility In Mind) というユタ州立大にある非営利団体が2009年から行なっている調査で、スクリーンリーダー利用者にアンケートを行った結果 がまとめられています。欧米を中心としたグローバルな調査結果(アメリカ60%、ヨーロッパ23%)です。
この調査結果にはない日本での状況についても少しだけ言及しつつ、一番気になったデータを抜粋してまとめてみます。
回答者の概要
アンケートに回答した1,792名のうち9割近い方がなんらかの障害を理由にスクリーンリーダーを使っていると回答しています。また、障害のうち盲目(blindness)が75.8%、低視力・視覚障害(low vision/visually impaired)が20.4%で、この二つが大半を占めます。
デスクトップのスクリーンリーダー Top 3
複数のデスクトップ・スクリーンリーダーを利用する人が68%いて、メインで使っているリーダーは以下の通りです。
「その他」のなかにはZoomText、SA or SAToGo、Window-Eyes、ChromeVox、Narratorが入っています。また、「よく使うスクリーンリーダー」という質問への回答結果も似たような割合ですが、こちらではNarratorを回答に入れている方が多いです。
そのころ日本では…
2013年の調査結果なので現在の状況とは異なるかもしれませんが、日本ではPC-Talker という日本製のスクリーンリーダーが高いシェアを誇っています。税込41,040円でJAWSと比べると1/3の値段ですし日本製ということでシェアが高いのも理解できます(記事執筆当時)。
ここで紹介されているのは新潟大学の研究室で行われた調査の結果 なんですが、2013年以降の調査は見当たりません。5年近く経っているので、だいぶ状況は変わってるんじゃないかと想像します。
3大スクリーンリーダー + 1の概要
以下、3大スクリーンリーダー + 1について簡単にまとめておきます。
JAWS
Windows向けの有料スクリーンリーダー。シェアが物語ってますし、いくつかのサイトで読んだ感じだとJAWSが一番使いやすいみたいですね(少なくとも欧米文化圏では)。日本語版(新規)は153,360円となかなか高額です。他より格段に使いやすいとか便利な機能があるのであれば、その価値は十分あるんでしょうけど。PC1台買える値段なんですね。
ただ、JAWSには過去にPCをクラッシュさせるバグがあって、その際にNVDAにスイッチしたなんていう記事 もありました。この方によると、NVDAは細かい項目の読み上げ方など使いにくいところもあるけどメインのリーダーとして十分使えると書いています。
高額なので古いバージョンを使ってる方も多いとの考察 もあります。
NVDA
Windows向けのオープンソースで無料のスクリーンリーダー。NonVisual Desktop Accessの略だそうで(読み方はニブダでいいのかな?ニビダ?ストレートに「エヌブイディーエー」と読むそうです。@bakeraさんに教えていただきました )。改良されて近年シェアを伸ばしてるみたいです。WebAIMの調査結果に無料・低コストのスクリーンリーダーについての質問もあるのですが、77.8%の人が商用のものと比べても有効なオプションだと答えています。
日本語化プロジェクト があって日本語にも対応しています。更新も頻繁にされていて開発が活発なようです。実際に使ってみないとわからないところもありますが、今後もシェアを伸ばしていきそうですね。
VoiceOver
MacとiOSにインストールされているスクリーンリーダー。モバイルでは圧倒的なシェアを誇ります。iPhone、iPad、Macのいずれかを持ってればインストールなしで使えるので身近な存在です。
PC-Talker
高知システム開発 という日本の会社が開発したスクリーンリーダー。製品紹介ページ に「1983年より日本初の日本語音声ワープロ『AOKワープロ』やMS-DOS専用スクリーンリーダー『PC-Voice』など、視覚障がい者に配慮したコンピュータ支援システムを開発・販売してきました。」とあって、PC-Talkerは1998年のWin98版からWindowsと共にバージョンアップを重ねています。IE7以上に対応 しているそうです。
製品紹介を読む限り、日本語への対応がしっかりしていて価格も41,040円(税込)とJAWSの1/3以下だから、自分でもPC-Talkerを使うだろうなと思います。(記事執筆当時)
一緒に使うブラウザ
デスクトップでメインのスクリーンリーダーと一緒によく使われるブラウザは以下の通りです(複数回答)。
近年、Firefoxがいい感じでシェアを伸ばしてるようです。どこかでオープンソースでNVDAとの相性が良いといったことも書いてあったので、NVDAの改善に伴って一緒にシェアを伸ばしてるのかもしれませんね。意外にもChromeのシェアが低いんですね。
ちなみに、「その他」には「IE6、7、8」、「IE9、10」、MS Edgeが入っています。
よく使うスクリーンリーダーとブラウザのコンビネーション
JAWSとIE、NVDAとFirefoxが定番のコンビネーションなんですね。
スクリーンリーダーとビジュアル・ブラウザの使い方
ページを閲覧しながらスクリーンリーダーを使う方も結構いるんですね。約3/4がスクリーンリーダーのみを使うという結果ですが、2割近い人がビジュアルとリーダーの両方を使うと回答しています。
日本の視覚障害者の人数
スクリーンリーダーとビジュアル・ブラウザの両方使う方が2割もいるというのに驚きました。2割が多いのか少ないのか、なかなか判断がつきにくいですが、日本で視覚障害を持っている方の推計は31万人(平成18年厚生労働省調べ )だそうなので、その2割だと62,000人になります。ただ、視覚障害者の方のうちパソコンを利用している(毎日、または、たまに利用する)と回答しているのが12.4%なので実数はもう少し減りそうです(62,000人 x 12.4% = 7,688人)。あくまで統計の話で推計ですけどね。
しかし、視覚障害者の方で、パソコンを「毎日利用する」または「たまに利用する」という方が12.4%しかいないのも驚きです。やっぱり利用のハードルが高いんでしょうか。ウェブサイトのアクセシビリティ対策しかり、PCやスマホの技術的要因しかり、まだまだ改善の余地があるということですね。AIスピーカーがもっと一般的になれば、視覚障害者の方のネット利用も、もっと改善されるでしょうか。。。そう考えると、ウェブサイトのAI対応も必須になってきますね。
新潟大の調査とは異なる結果
この厚生労働省の調査結果ですが、先ほど紹介した新潟大学のものと結果が異なります。新潟大の調査結果(PDF) では回答者の95.4%がパソコンを利用していると答えているんですね。なんでかなぁと思ったら、アンケートの方法が「視覚障害者が主に参加する47のメーリングリストで回答者を募集した」ということでした。メーリングリストに登録してる方たちだからパソコン利用率が高くないとおかしいですもんね。
モバイルではVoiceOverが主流
「モバイルでスクリーンリーダーを使いますか?」という質問に88%の方が「はい」と答えています。デストップとモバイルを同じくらいの割合で利用する人が54.0%、デストップをより頻繁に使う人が34.6%で、11.4%がモバイルをより頻繁に使うとのことです。また、モバイルで利用するプラットフォームははiOSが75.6%、Androidが22.0%とのことです。
よく使うスクリーンリーダーのTop 3は以下になります(複数回答)。
VoiceOver | 69.0% |
---|---|
TalkBack for Android | 29.5% |
Voice Assistant | 5.2% |
さいごにひとこと
先日のCSS Gridとアクセシビリティの記事を書いていて、ユーザの利用環境に近い環境でテストしてみないとわからないことが多いと思ったので、主要なスクリーンリーダーでのテスト環境を整えて使い方もしっかり覚えようと思っています。MacのVoiceOverの使い方を覚えるのでさえ、すでに挫折してるんですけどね。なんか馴染めなくて。。。頑張ろう。
ちなみにWebAIMの「Screen Reader Survey」には、Landmarkについてや情報の探し方など、スクリーンリーダーの使い方に関するより具体的な調査結果も含まれていて、ウェブサイトのアクセシビリティ対応を考える際にとても参考になりそうです。その辺りはもう少し読み込んでリサーチして後日このブログでシェアできたらと思います。
アクセシビリティには「独自の”テクニック”」が必要
今回、アクセシビリティについて学び始めてみて、改めて「独自の”テクニック”」が必要だというのを実感しています。セマンティックなコーディングをしていればアクセシブルなはずだ!というわけにはいかない部分があるんですね。セマンティックなコーディングをベースとすることは間違ってはいないものの、より多くの方々に気持ちよくウェブサイトを使ってもらうためには、やはりそれなりの工夫というかテクニックが必要なんですね。
近い将来、職場のウェブサイトのデザインシステム(またはフレームワーク、またはパターン・ライブラリ)を再構築しようと考えているので、その際は、そういったアクセシビリティの「独自の”テクニック”」をソースに組み込めるように、しっかり準備をしていきたいと思います。
システムに組み込んでおけば、それを元に作られたページがアクセシブルになる確率が格段に上がりますからね。
Let’s all aim for making reasonably accessible websites! Imagine all the people…
参照URL
- WebAIM: Screen Reader User Survey #7 Results
- スクリーンリーダー PC-Talker
- スクリーンリーダーのシェアを調べた研究報告書の紹介 – 聴く耳を持たない(片方しか)
- 視覚障害者の携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコン利用状況調査2013 – 新潟大学学術リポジトリ Nuar
- JAWS vs. NVDA: Hearing Another Voice
- Screen reader testing guidelines v2.0 – BBC Future Media Standards and Guidelines
- USING NVDA SCREEN READER ON WINDOWS – Bocoup
- JAWS Screen Reader
- JAWS日本語版
- NVDA日本語版 ダウンロードと説明
- NV Access
- VoiceOver について
- 高知システム開発
- 平成18年身体障害児・者実態調査結果 – 厚生労働省
- スクリーンリーダと音声ブラウザの種類とそれらの概要
更新履歴
- NVDAの読み方の記述を修正・追記しました。「エヌブイディーエー」と読むそうです。 (2018/2/8)
- チャート画像にALTタグで説明を追加しました。コメントでご指摘いただいて気づきました。ありがとうございます。基本的なところから抜けてました。出来るところからしっかりやって行くというのも大切ですね。まだまだ自分の中での意識改革が必要なようです。 (2018/2/7)
2018年2月6日に公開され、2018年2月8日に更新された記事です。
About the author
「明日のウェブ制作に役立つアイディア」をテーマにこのブログを書いています。アメリカの大学を卒業後、ボストン近郊のウェブ制作会社に勤務。帰国後、東京のウェブ制作会社に勤務した後、ウェブ担当者として日英バイリンガルのサイト運営に携わる。詳しくはこちら。
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> 独自の”テクニック”
の前に、画像に alt 属性を入れることからはじめてみてはいかがでしょう?この記事ではスクリーンリーダーで閲覧した際、画像に代替テキストが無いためグラフの意図が読み取れません。
たしかに。おっしゃる通りですね。
以下あたりを参考にalt入れてみました:
http://jis8341.net/jirei_sample/jirei_chapter_01.html